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 やさしいキスをして


「先生って好きとか言うの?」
 サクラちゃんの疑問は突然だった。ふらっと出会った里の通り、何気なく誘った甘味屋であんみつをつつきながら一言。
 とっさに返事が出来ないオレを詰まらなそうに見つめて、サクラちゃんは赤い唇を尖らせる。「ただの好奇心だから気にしなくていいわ」
 ええーちょっと、突っ込んで聞かれても困るけど、放置されてもなんだか困る。そんなオレの心情なんてお構いなしに、いのとの小競り合いについて話題は移っていった。


 たらふく甘いものを食べてお喋りして、バイバイして帰り着いた自宅でカカシ先生はごろりと横になっていた。
「ただいまー」
 んー、と寝ぼけた声が返ってくる。おお、結構深く寝入ってるみたいだ。
 うにゃうにゃと何やらオレに言おうとしてる先生、でも口が回ってなくて結局寝息に消えていった。多分、おかえりとかそういうこと。
 へへ、と緩む口元を自覚しながら先生に歩み寄る。好きって言わないの、だって。サクラちゃん鋭いなあ。そんなことを考える。

 先生とオレがこういう関係になったのは、餓鬼だったオレの家に先生が野菜を持ってきてくれてた頃、その回数が段々増えてって、一緒にご飯食べてくようになって、泊まることが増えて。比例してドンドン痛くなる心臓に耐えかねたオレが先生好き、って叫んだらカカシ先生は呆気なくうん、って頷いて抱きしめてくれた。それが始まり。
 オレは先生が好きだって気持ちが溜まる一方で、吐き出さないと苦しいから何度でも先生に伝えるけど、先生はそういうこと言わない。だから最初は先生の本当がわからなかった。多分傍から見てても、オレが先生好きで好きで大好きで、って言うのはもうダダ漏れなんだろうけど、先生はそうじゃあないんだろうな。サクラちゃんの疑問も頷ける。

 でも、ある日オレは気づいてしまったのだ。
 オレが先生に好きだって言うと、先生は少しだけ目を細めてオレを見る。
 いつもは恥ずかしいからすぐ俯いちまうんだけど、その日は勇気を出して先生を見上げてみた。
 そしたら、そしたらさ。色違いの両目が、凄く、凄く凄く優しくて、あったかくて、柔らかくて、熱い色を宿して、オレを見ていた。
 先生の想いが、まるで目を合わせたところから音を立ててオレの中に流れ込んでくるようだった。
 ────オレはずっとそれまで、オレが先生を想う気持ちは先生より何倍も何十倍も大きいと思ってた。
 でもあの目を見た時、オレは敵わないと思ってしまったのだ。オレの想いなんてまだまだだって、負けず嫌いなオレが勝てないって一瞬でも思っちゃうくらい。勝ち負けじゃないんだけど、でもあの時負けたって思った。実は腰も抜けた。すっげー悔しいんだけど、だってオレってば先生大好きなのに、でも、すっげー嬉しくって、そんで。
 言葉に出来ない、ってのを初めて知った。

 だからさ。先生は好きとか言わないんだけどさ。
 言葉じゃ伝えきれない想いってのを、オレってばもらっちゃってるんだ。


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